日本語には気象に関するさまざまな表現があります。
私たちが日常的に耳にするものですが、それらの言葉の詳細な意味を完全に理解しているわけではありません。
例えば「時雨」という言葉があります。
料理名の「時雨煮」や「金時」といった言葉を思い浮かべるかもしれませんが、気象用語としての「時雨」はどのような意味を持っているのでしょうか?
この記事では「時雨」の意味を詳しく解説します。
「時雨」の読み方と意味について
「時雨」は「しぐれ」とも「じう」とも読むことがあります。
この言葉は、秋の終わりから冬の初めにかけて、晴れと曇りが交互に訪れる時に、短時間で降るがすぐに止む短い雨を指します。
時雨の成り立ち
この季節には、北西の季節風が大陸から湿った空気を日本列島に運びます。
日本の中央部に連なる山脈が、この湿った空気の通過を阻みます。
その結果、日本海側や京都盆地、岐阜県、長野県、福島県などの山間部では、晴れ間が見えるかと思うと突然雨が降り出し、短時間で止んで再び晴れ間が訪れるという現象が繰り返されます。
これが「時雨」と呼ばれる現象の仕組みです。
時雨に関連する用語
「時雨」という言葉には様々な関連する用語があります。
時雨煮(しぐれに)について
時雨煮は、貝や魚介類、牛肉を生姜で味付けした佃煮の一種で、しばしば単に「時雨」と呼ばれることもあります。
この料理名にはいくつかの由来があるとされていますが、主要なものとしては次のような説があります。
- 主な材料であるハマグリなどが、時雨が降る季節、つまり秋の終わりから冬の初めに旬を迎えること。
- 瞬く間に様々な風味が口の中を通過する様子が、短い時雨にたとえられること。
宇治時雨のカキ氷
カキ氷の種類の中に「宇治時雨」というスタイルがあります。
「宇治」とは抹茶を指し、このスタイルでは甘い抹茶シロップまたは苦味のある抹茶シロップをかけ、その上にミルク(練乳)を加えます。
この味の組み合わせが、一時的な通り雨を連想させることからこの名がつけられました。
これは「宇治金時」と似ていますが、「宇治金時」ではさらにあんこがトッピングされる点が異なります。
蝉時雨について
「蝉時雨」とは、多くの蝉が同時に鳴き始める現象のことです。
この大きな鳴き声が、時雨が降る音に例えられるため、この名称が付けられました。
露時雨の現象
「露時雨」とは、露が広範囲にわたって散布され、時雨が降った後のような様子を指します。
これは、空気中の水蒸気が冷えて草木や建物に水滴として凝結し、風によってこれらの水滴が飛び散る現象を指します。
時雨とはどの季節の季語なのか?
「時雨」は、「冬の初め」に関連付けられる季語とされています。
これは、秋の終わりから冬の初めにかけての短い雨を指し、そのため「冬の季語」として分類されます。
また、「時雨」に関連する言葉には、次の上記で紹介したもの以外に、ようなものがあります。
- 「朝時雨」「夕時雨」「小夜時雨」など、時間帯を表す言葉
- 「村時雨」「横時雨」「片時雨」など、時雨の様態を表す言葉
また「時雨」を題材にした有名な俳句としては、松尾芭蕉の作品があります。
●松尾芭蕉『初時雨 猿も小蓑を 欲しげなり』(はつしぐれ さるもこみのを ほしげなり)
この句は、伊賀越えの山中でその年最初の時雨に遭遇した際の様子を詠んでおり、著者自身が蓑を身に纏っていた一方で、木の上の猿も蓑を欲しそうにしている姿を描いています。
この「蓑」は、現代で言う「雨合羽(あまがっぱ)」に当たります。
「時雨」を英語でどう表現するか
「時雨」を英語で表現するのは難しいですが、類似の意味を持つ英語表現はいくつかあります。
- drizzle:霧雨、小雨
- drizzling rain:しとしと降る雨
- scattered showers:にわか雨、通り雨
さらに、「時雨」を英語で説明する際は次のようになります。
「drizzle, shower in late autumn (or fall) or early winter」 これは、「秋の終わりまたは冬の初めに降る霧雨や小雨」と解釈されます。
「通り雨」という表現は一年を通じて使われますが、「時雨」という言葉を使うことで、同じ現象に季節感が加わります。
この言葉を選んだ先祖たちは、単なる気象現象以上に季節の移ろいや情緒を感じさせたかったのかもしれません。
言葉一つからさまざまな感情やイメージが生まれるのは、非常に興味深く魅力的です。